私は、在宅医療に携わるまで、急性期から慢性期、精神科領域まで様々な疾患に対応できるように20年以上様々な領域で看護師として従事してきました。
その中でも、自身の集大成として、命を救う現場に従事したいと考え、救命救急を希望し初療室の看護師として従事していました。命の救う現場では、口頭指示が当たり前で、様々な薬剤の名前が飛び交いました。医師によって使用する薬剤の違い、同じ薬剤であっても後発品などがあり、薬剤の名前が全く違うことが多くありました。
しかし、理解していることが当たり前でした。その中で私自身大きなインシデントを起こした経験があります。指示された薬剤を準備しましたが、それは先発品の薬剤であり、本来投与する薬剤は後発品の薬剤でした。同じ成分であっても単位数が異なり、数倍の量の薬液を準備してしまいました。あの時の光景を今でも思い出し、後悔しない日はありません。看護師をやめようとも思いました。
しかし、今こうして私が看護師として働いているのは、あの時に背負った十字架を一生忘れずに、患者様に返していこうと決意したからです。在宅医療の世界を選んだのも、在宅での医療の幅を広げ、治療を要する患者様でも在宅での生活を可能にしたいと考えたからです。
その中で基本となる指示書の発行が遅延している現状を目の当たりにしました。さらにそのことが何故か当然のことのように捉えられていたことに驚きました。
そして、電話での対応、FAXや郵送が当たり前であり、本来必要な指示書が届かないまま、口頭で患者様のもとに訪問しなければいけない現状に戸惑いました。
このままで本当にいいのか、この現実を打破することはできないのか仲間と考え続けました。
この問題に取り組む中で、在宅医療情報共有連携システム「ホームメディカルプラス」の開発に至りました。このシステムを広げることで、医師の指示が口頭ではなくなり、訪問看護をよりスムーズに行うことが可能になると考えました。高度な医療が必要な場合、点滴や輸血の実施、薬剤の変更など対応することが多くあります。
そのための書類が多く存在し、一人の患者様に複数の指示書が本来必要となります。実際私も書類仕事に追われる毎日です。書類作成する時間がなく、訪問することが多くあります。医師はその何倍もの書類仕事に追われながら、患者様の診療に追われることが現状と推測されます。このホームメディカルプラスを広げていくことで、書類上のやり取りに追われる時間が軽減することができます。
そして、指示書の可視化により、医師と看護師が協力しながら安全な医療を提供することに繋がると考えました。あの時の過去の経験を無駄にはせず、今後在宅医療を支えていく看護師が安心して患者様のもとに行けることが、私の使命だと思っています。私が経験した辛い思いを他の誰にもさせたくない。そのためにもこのホームメディカルプラスを広げていき、在宅医療の当たり前を少しでも変える一歩の担い手になれるように日々学習し奮闘し続けていきます。